メキシコ:ガソリナッソの抗議は、「メキシコの春」へとつながるのか?
- 2017.01.19 Thursday
- 05:18
メキシコ政府によって引き上げられたガソリン価格の値上げに反対して、メキシコ・シティの繁華街をデモ行進する抗議者。2017年1月7日。|写真:Reuters
「メキシコの春」を目撃しているのか。それは、政治変革に向けた組織された勢力へと花開くことが出来る抗議運動なのか?
「大きな、きれいな壁」の代金を払わなければならないのか(そうでないのか)ということだけでなく、2017年がメキシコにとって難しい年になるのは、すでに明らかである。
新年の日に、メキシコ政府が国のガソリンの補助金を撤廃したことから、メキシコのガソリン価格が14%から20%の範囲で大きく値上げされた。
合衆国の政治が、メキシコの中央銀行総裁が、経済的「ハリケーン」として表現したことを爆発させた。ドナルド・トランプの選挙の直後に、メキシコ・ペソがUSドルに対して12%値下がりし、自動車や石油といったメキシコの輸出品の将来に暗雲の兆候が表れた。
先週、投資家が貿易政策の変更の可能性に対処したことから、通貨はさらに2.5%下落した。例えば、フォード自動車がトランプという保護貿易論者の脅しに屈服して、数十億ドルのメキシコでのプロジェクトをキャンセルした。フィアット・クライスラーもまた、メキシコの工場の閉鎖を検討中である。
燃料価格の急激な値上げ「ガソリナッソ」(ガソリン・ショック)は、弱体化した通貨と一緒になって、国内の不満に火を点けた。
怒ったメキシコ人たちは、少なくとも25州で路上に出て、道路、ガソリンスタンド、燃料施設を封鎖した。略奪は、数千人の逮捕となった。
これはまさに「ゼロ度抗議」(zero-degree protest)なのか。これは、何も要求しない暴力行動に対するスロベニアの文化批評家スラボイ・チチェクの言葉である。あるいは、メキシコ人ジャーナリスト、カルメン・アリステグイが示唆しているように、我々は、「メキシコの春」を目撃しているのか。それは、政治変革を目指す組織された力へと花開くことが出来る抗議運動なのか?
ガソリンは可燃性である
2013年のエネルギー法の全面改訂で、昨年、メキシコは、ガソリンの輸入や、サービスステーションの開設が民間部門でできるようにした。以前は、この部門は国営のペトロレオス・メキシカノスが独占していた。価格改定は、2017年をかけてゆっくりと引き上げる予定である。
これらの変更は、メキシコ経済の競争力を改善することを狙ったものである。しかし、今日のメキシコ人は、1日の最低賃金が現在80ペソ(US$3.60)の国で、オーストラリア人やカナダ人と同じ位のガソリン価格を支払っている。
メキシコ政府は、この国内の民営化プロセスは、ただ単に、不運にも、国際的な原油価格の値上げと重なっただけだ、と主張している。
テレビ演説で、エンリケ・ペーニャ・ニエト大統領は理解を求めて、もし、政府がガソリン価格を値上げしなければ、社会サービスを削減せざるを得なくなる、と発言した。
「あなた方に尋ねる。どうしたいのだ?」
#どうしたい? (#WhatWouldYouHaveDone?)
彼の疑問は、すぐにソーシャル・メディアのミーム(meme)となり、沢山のメキシコ人が、「大統領の給料を下げろ」とか「メキシコを再び素晴らしい国にしろ」といった別の解決策がツイートされた。
真剣な反応の中でも、腐敗との闘いが人気のある提案である。ペーニャ・ニエトは、最近、彼の妻が政府の契約企業から700万US$の自宅を購入したことを巡る利害紛争を謝罪した。「制度的革命党」の数人の注目を浴びているメンバーが、犯罪の嫌疑に直面している。そのメンバーには、横領容疑で告訴された後、行方不明となった、ベラクルスの元知事ヤビエル・デュアルテも含まれている。
政府支出の削減は、そのうちのいくつかは官僚の法外な利益に支出したものだが、もう一つの人気のある提案である。
ペーニャ・ニエトは、政府は、ガソリンの値上げの前に1,900億ペソ(588億US$)の支出削減をすでに実施したと発表したけれども、この情報は嘘だった。2015年には、政府は1,800億ペソ(586億US$)の予算超過だった。
不足は、かならずしも、費用のかかる社会プログラムのせいではない。平均の家計収入が、年間12,806US$であるこの国では、ペーニャ・ニエト政府は、上院議員に一人当たり11,000US$と下院議員に一人当たり6,500US$の「クリスマス・ボーナス」を支払っている。
彼の辞任を求める結集が拡大した時、ペーニャ・ニエトは遅ればせながら、彼が石油価格の値上げの家族への影響を緩和するつもりだ、といった処置の要点を説明した。彼は、例えば、必需品の商品の価格上昇を管理すること、および公共交通機関の近代化に投資することを約束した。
しかしながら、メキシコ人は、今度は簡単に、なだめられることはない。最近の全国の世論調査では、回答者の87%が、これらの措置ではガソリン価格の突然の値上げを差し引きゼロにはしない、と考えていることが明らかになった。
このように、ガソリン価格は、限度を越えさせるものであるかもしれない。深く不満の鬱積したメキシコ人は、腐敗の文化、停滞した政治と絶え間ない暴力の10年に対して厳しく非難するものとして、1週間以上に渡って、ガソリンは、反乱の炎を刺激した。
見習い
内閣改造の発表は、驚きの瞬間である。そして、特に、ペーニャ・ニエトが、1月4日に、元財政大臣ルイス・ビデガレイをメキシコの外務大臣に指名したのは、不可解である。
メキシコ人は、ビデガレイを、メキシコを経済的苦痛(財政大臣だった時、彼は石油価格を上げないと約束していた)に追いやった責任を非難するだけでなく、彼はまた、2016年の8月に当時候補者だったトランプのメキシコ訪問を提唱した人間でもある。
この戦略的な失敗、ペーニャとの関係の決まり悪さが明らかになって、またトランプを持ち上げたことで、ビデガレイは財政大臣の職を辞任させられた。
ビデガレイは、外交家ではないことは認識しており、見かけ上は謙遜な態度で「ここで学ぶ」つもりですと、発言した。この声明の後すぐに、ソーシャル・メディアで反発が起きた。
メキシコには、たくさんの経験豊富な外交家や大使がいる。しかし、ビデガレイは、ドナルド・トランプの義理の息子である、ジャレッド・クシュナーとの結び付きがある。ペーニャ・ニエトは、ホワイトハウスのお友達がいれば、トランプ下でのメキシコ・合衆国の関係を多少は穏やかにすることに役立つと思っているのかもしれない。
どちらにしても、ペーニャ・ニエトは、メキシコのために、繊細な政治的岐路でトランプへ見習い(洒落のつもりです!)を送った。そして、トランプの攻撃に直面して、政府の明らかな温和で騙されやすさは、メキシコの人民を激怒させた。
ドナルド・トランプ、革命家
昨年、スラボイ・チチェクが、不名誉にも、ドナルド・トランプが合衆国の選挙で勝利する方が望ましいと宣言した。なぜなら、トランプの厚かましい差別的で攻撃的な政治的提案が世界的な抵抗を刺激し、変化に拍車をかけるからだ。
これがメキシコで起きていることではないのか?
次々とツイートで、トランプは、メキシコ人が考えていた合衆国との国家関係を破壊した。1914年にウッドロー・ウィルソンがベラクルスへ侵略して以来、合衆国は、公然と広範囲にメキシコを不安定化することにいかなる利益も示していなかった。
これは基本的に用心深さの問題である。すなわち、隣の家が燃えていると想定すれば、自分の家が灰となるリスクを減らそうとするだろう。
しかし、アメリカの時期大統領は、彼が南方で引き起している、災難にまったく満足していないようだ。「これは、始まりに過ぎない。これからだ。」と、フォードがメキシコへの投資を取り消したことを自慢した。
カール・マルクスの革命的ブルジョアジーのように、メキシコにとっては、トランプは、固体を溶かして跡形もなくし、神聖なものを冒涜するなど何でもありだ。
トランプが実際に権力を握った時にどんなことになるのか言えないが、彼が選出されたことによる社会的、経済的反響に対処できない無能さを示したメキシコ政府は、市民、革命を全く知らない人々に反乱を強制した。もし、そうしないとしたら、マルクスは失望する。
もちろん、略奪は、社会を変えることはない。ポーランド人の社会学者ツィグムント・バウマンは、それは単にグローバル資本主義の失敗によって生み出された、「欠陥のある失格した消費者」の行為に過ぎない、と述べている。
メキシコのガソリンの反乱とソーシャル・メディアの抗議は、本当の社会的、政治的変革、不満一杯のこの冬に続いて「メキシコの春」へと発展するのだろうか?
この記事は、最初に、「The Conversation」に公開されました。
ルイス・ゴメス・ロメロは、ウロンゴング大学の人権、憲法と法理論の上級講師。
(N)
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